|エンターテインメント|旬感・瞬間
深遠な境地 若者に直伝
●フラメンコライブ「小島章司 魂の贈り物」


 ホールに差し込む陽光を浴びて、5人の若者が、ベートーベンの「歓喜の歌」を口ずさむ。足元では、小柄な老いた男がまどろんでいる。
  ダッ、ダダッ!
  突然、静けさを破ったのは、床を強打する男の掌、そして靴。立ち上がるや、タタタタタと小刻みに靴底を踏み鳴らし、若者たちを挑発する。その男こそ、孤高のフラメンコダンサー・小島章司。か細い身体から信じられないほど激しいエネルギーを放つ。
  小空間でのフラメンコライブ「desunudo」の第3弾。約40年前、小島がスペインでの修行で身につけた古き良きフラメンコの精神を学ぶため、気鋭のダンサー・佐藤浩希らが企画した。
 肩をいからせたポーズ。優雅な背中のライン。今風の技巧をちりばめた踊りに比べると、小島直伝の振り付けは硬質で直線的だ。5人は厳密に型を守り、男らしさ、粋、悲しみと振りに込められた要素を丁寧に紡ぎ出す。最後は小島がソロを披露。重厚で自在なその姿は、古木のように味わい深い。長い修行の果てにたどりついた深遠な境地が感じられた。

文・祐成秀樹
写真・青山謙太郎