|舞踊|「小島章司 魂の贈り物」

老成と清新 美しい対比

 新鋭・佐藤浩希が大ベテラン・小島章司の胸を借りたフラメンコ公演「小島章司 魂の贈り物」。双方のカンパニーゆかりの矢野吉峰、末木三四郎、関リ光、松田知也を加えて、男性ばかり6人という珍しい公演である(2日、東京・代々木上原のムジカーザ)。
 冒頭ベートーベン第九の「歓喜の歌」を低くハミング、それがスペイン語の合唱に変わって踊りが始まった。

 客席80人のライブ空間に、黒ずくめのダンサー5人の若々しいサパテアードが満ちた。スタイリッシュな胸元、粋に伸びた腰つきが間近に迫り、こまやかな表情も見えて、フラメンコならではの臨場感に圧倒される。そこへ白衣の小島が何とも艶めいて、しなやかに一人一人と絡み、魔女のような風情でいったん退場。
 2曲目以降は小島振り付けの正統フラメンコである。激しい手拍子やつえの打音で盛り上げ、胸や脚の直線的な動きが男性フラメンコの力強さ、真摯な心情を印象づける。なかなかの見応えだ。
  だが最終曲の小島のソロで雰囲気は一変する。黒いスカートを揺るがして、いささかの力みもないのに鋭く、激しいのに軽やか。そしてとても静かだ。精妙かつ自在なリズムで体のすべての部分から無数の光が発し、全身がまるでクモの巣のように見える。無心のさまで魂の底から踊っているというか、踊りの中に人間そのものが裸形で見えるというか。フィナーレの後、小島が無伴奏で踊った短いソロはまさに絶品。
  これが大先輩から若者らへの伝授もしくは励ましとしても道は遥かだ。が、老成と清新をかくも美しく対比させた企図は成功した。
 それにしても、本来ダンスは男性の領分だったのかも。そう思った。

佐々木亮子・舞踊評論家
(川島浩之氏撮影)

2009/9/8(火) 朝日新聞・夕刊